2008/09/28

よこはま・たそがれ(他3曲)/五木ひろし

ディープな歌謡曲の世界を旅しております。
その中でもラスボス級の大物である五木ひろしを聴いてみたいと思います。アルバム1枚とか聴くのはちょっと大変なので、比較的前期に属する4曲を聴きます。「よこはま・たそがれ」「夜空」、それに事務所独立後の勝負曲だった「おまえとふたり」、レコード大賞受賞曲の「長良川演歌」です。ついでに言うと、「おまえとふたり」以降の作品はみんな同じだと思っているんですよね、私は(ファンの人からは説教されるでしょうね)。

五木ひろしはヒット曲の数、受賞歴、業界での位置づけなど、どれをとっても押しも押されぬ大スタアです。しかもぽっと出で売れたんじゃなくて、今の名前になるまでに何度も芸名を変え、レコード会社を代わり、と下積みの苦労を知っているのも本物っぽいところです。
では、実際どんなものなのか、聴いてみましょう。

1.よこはま・たそがれ
作詞 山口洋子/作曲 平尾昌晃
山口洋子の歌詞は、「あの人は行ってしまった」以外はすべて単語の羅列という画期的なもの。コラージュという手法は絵画が元だと思いますが、そこから音楽、文学でも同様な表現があり、この歌詞もその一つ。曲は演歌の中ではモダンな8ビートの中に、サビでの跳躍などテクニックと音域が必要なもの。当時の歌謡曲ど真ん中の作家がかなり集中して作ったと思われる作品です。そんな作品を「うた」として社会に広く届けるというのが再デビューに賭ける若き五木ひろしへの課題だったというわけです。
実際に聴いてみると、今私たちの頭の中にある五木ひろしの唄い方よりもずっと熱唱していますね。その中でも小節をきかせる部分とロングトーンの使い分け、サビの部分でさりげなくファルセットを混ぜるところなど、高度なテクニックを駆使しています。今では完全に封印していますが、この人はモノマネがもの凄く巧く、家には一生使い切れないほどの象印電子ジャーと魔法瓶が在庫されているはずです。
五木ひろし - 五木ひろし 配信限定ベスト 其の一 - EP - よこはま・たそがれ

2.夜空
作詞作曲は1と同じです。
当時小学生だった私にもとても分かりやすいいい歌でした。この間、ジェロのカバーも聴きました。声質とハリは甲乙付け難い。違うのは五木ひろしには押しと引きを感じますが、ジェロの方はバックが分厚い分、引きが使えていないので、歌唱としてのメリハリは五木ひろしに軍配か?「さみしいさみしい」の芝居っけを巧いと見るか、クドいと見るかで好き嫌いが別れるでしょうか。
五木ひろし - 五木ひろし 配信限定ベスト 其の三 - EP - 夜空

3.おまえとふたり
作詞 たかたかし/作曲 木村好夫
木村好夫はギタリストとしてアルバムをたくさん出している有名な人で、クラシックギターを習ったことがある人にはお馴染みの名前です。このギター演歌が成功したことで以降の五木ひろしはこの手のナンバーが多くなってしまいました。唄い方も今の唄い方であり、モノマネの人が真似するいわゆる五木風の唄い方になっています。声を張りすぎない、コントロール重視の唄い方。歌のメロディに寄り添うように木村好夫のギターが絡み、これはこれで芸術性が高いとは言えますが、女声コーラスのダサさなんかはJ-POP世代には許せない感じもします。ただただおとなしく唄っているように聴こえますが、やんちゃな巻き舌を使ったり鼻濁音もわりといい加減。これは意識してそういう部分を作っているのか、大物になったがゆえの手抜きなのかは、もう素人では聞き分けられないのでした。
五木ひろし - 五木ひろし 配信限定ベスト 其の三 - EP - おまえとふたり

4.長良川艶歌
作詞 石本美由起/作曲:岡千秋
「奥飛騨慕情」などのド艶歌復権の兆しが見られた80年代前半にロングヒットした曲です。この頃はもう、私には全く興味のない音楽になっていましたが、世間の評判はよく、レコード大賞をとったりしています。
格調高い琴の音から始まって、すぐにいつものイントロに切り替わって、そこから先はほぼ奥飛騨慕情です。岐阜県在住の女性が鵜飼の季節に出張かなんかで訪れた男性と一晩過ごしてそれっきり別れました、という話を3コーラス分の歌詞を作ってメロディをつけた、という曲です。全てが紋切り型で、この歌を聴いたからといって人生が変わったりは絶対にしないと思います。それを五木ひろしが歌唱テクニックを駆使して「なんだか分からないけどすごいもの」に仕立てています。一部の実力と人気のある歌手がこういうことをしてやるから、演歌を作るセンセイたちは楽ばっかりして、全体が下火になったんだと思うんですが、違いますかね。
五木ひろし - 五木ひろし 配信限定ベスト 其の四 - EP - 長良川艶歌

五木ひろしは男性歌手のなかでも相当緻密にコントロールされた唄い方をする人だと思います。ちあきなおみと並べて聴いても、ちあきなおみの方が自由度は高いような気がしますが、奥行きの深さにおいては互角。ただ、シンガー・ソングライター系の歌唱に慣れている私のようなタイプの聴き手は、「もっと頑張って唄えよ」と思ってしまいます。実際には頑張っていないのではなくて、自分の声に溺れず、常にベストの歌唱を届けるための高度に制御された唄い方をしているのだということだけは良く分かりました。
また、男の私の耳にはこの人の声は「ごく普通のまあまあいい声」にしか聴こえないのですが、おばさまたちの熱狂を見るに、女性にとっては、下半身を揺さぶられるようなセクシーな声に聴こえているのかもしれません。

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