2010/11/28

グッバイ/小田和正

宇多田ヒカルと並んで好物である小田和正の新作が出ました。なんやら獣医ものドラマのタイアップになっている「グッバイ」です。

いつかも書いたんですが、小田さんは意識としては郷ひろみと似ているのではないかと思います。郷ひろみが50代半ばになってもジャケットをぴらぴらさせながら舞い踊るのと、小田さんが60過ぎてハイトーンで熱唱するのは、「精進が年齢を超越する生き方の実践」をファンに見せたいからとしか考えられません。そしてそれは歳相応に老いて行く同年輩(の同業者やひょっとしてファン)への批判でもあります。

それにしても最近の小田さんのマンネリズムはもう確信犯を通り越してストイックさすら感じます。
裏にアクセントのあるアコースティックギターとタンバリンは「YES-YES-YES」や「BETWEEN THE WORD & THE HEART~言葉と心」などのやり直しでしょう。歌詞も相変わらず、夏は終わるし、夢はくじけそうになるし、風は強く吹いています。おまけにサビが「Goodbye Goodbye Goodbye~」って、「さよなら さよなら」が英語になっただけ、というオチまで!

小田さんの歌詞は「じつは何も言ってない」ということにかけては最近のJ-POPの嚆矢ではないかと私は思います。
具体性が非常に乏しい。
「この」「その」「そんな」「そのまま」などの指示語がなんの前触れもなく使われ、単なる字数稼ぎではないか?詩作の作業から逃げてるのではないか?と。
だから世の中に「小田和正全詞集」なんて出版物があることを知ったときは驚きました。
好意的に解釈すると、彼の場合は下世話な具体性に満ちた同年輩の「フォーク」に対するアンチという意識が強かったから、という考察も成り立つのですが、今の大多数のJ-POPの、「じつは何も言ってない歌詞」の氾濫を見るにつけ、小田和正(オフコース)の負の遺産ではないかと思ってしまいます。

2010/11/23

UTADA HIKARU SINGLE COLLECTION VOL.2 [Disc2]/宇多田ヒカル

正式な発売日は明日ですが、Amazonが休日バイトを集められなかったのか(まさかね)予定より1日早く"UTADA HIKARU SINGLE COLLECTION VOL.2"が今日のお昼前に届けられました。「休養前」だけに勤労感謝の日に届くようにしたんでしょうか?

さて、このいわゆるSC2、"DEEP RIVER"までがVOL.1でしたから、今回はその後のシングルを集めたベスト盤+別ディスクで新曲5曲のミニアルバムという作りになっています。さらに初回特典で"Goodbye Happiness"のビデオが付いています。
「衝撃のデビュー」から一気に駆け抜けた時期であるVOL.1と違い、こちらは結婚・海外進出・離婚その他諸々あった時期の作品が並んでいます。とはいえ、Disc1の方はすっかりおなじみの曲ですから後でじっくり味わうとして、とにかく気になる新曲5曲を聴いてみました。

1.嵐の女神
途中で「お母さん」と言っているので、これは自分の母親、美人で挙動不審なあの人に対する歌なんでしょう。ちょっと70年代頃の洋楽シンガー・ソングライターっぽい曲調は宇多田ヒカルには珍しい気がします。普段の宇多田ヒカルを期待すると拍子抜けするほどシンプル。

2.Show Me Love(Not A Dream)
こちらは曲はともかく歌詞がまったく宇多田ヒカルらしくないので聴いてて不安になる曲。「実際」「自力」「一歩」とキツイ音読みの熟語を並べるような乱暴な言葉の選び方をする人ではなかったように思うのですが。心情吐露的歌詞は"Fight The Blue"にも似ているようですが、あの曲のようにユーモラスな箇所も無く、きっちり受け止めるには辛い作品です。

3.Goodbye Happiness
その点、この曲は安心。宇多田ヒカルらしいアイデアがたくさん入っています。2コーラス終わった後のぶわーっと広がる展開も良いし。イントロの「あああ、あああ」のテーマが曲のほぼ全体でずーっと続いているところもおしゃれです。

4.Hymne a l'amour ~愛のアンセム~
サンプリングかと思うような2倍か4倍速のバックで歌う「愛の讃歌」。なんでこの曲?という疑問は晴れませんが、「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」もありましたからね。

5.Can't Wait 'Til Christmas
「クリスマスまで待てない」ってタイトルもそうですが、この普通さはなんでしょう?どこかでなにか変なことをやってくるに違いないと期待してましたが、そのまま終わってしまいました。もちろん普通のJ-POP的には「いい曲」です。

私の要求が歪んでいるのかもしれませんが、今回の新曲5曲、特に1,2,5あたりは今まで通りの宇多田ヒカルを期待すると肩透かしを食います。従来の彼女の特長はシンガー・ソングライターとしての作品に透けて見える本人の姿(感情とか成長とか)が透けて見えつつ、実はかなりそれをソフィスティケートした形で品よく作品化しているところにあると思うのですが、今回は妙に生のままぶつけてきています。
それが「休養前」なのをいい機会に「一度シンプルな歌を作りたかった」というような創作上の欲求だったら良いのですが、いつものような才気あふれるアイデアとユーモアを込めて作品を発酵させるだけの体力が相当弱っていたのではないか?そんな、いらぬ心配をさせられました。

なにはともあれ、彼女は今の日本の大衆音楽においてダントツの才能だと思いますので、本当にボロボロになる前に休養でもなんでもして、末長く活動をして欲しいと思っています。ゆっくり休んでください、お疲れ様でした。

2010/11/09

Goodbye Happiness/宇多田ヒカル

あー、結局10月は1回もこのブログ更新しませんでした。
年を取って感性が鈍くなっているのかもしれませんが、この秋は新しい音楽が全然耳に入ってきませんでしたから。ま、本業が忙しかったのもありますが。

そういう意味では11月になって宇多田ヒカルの休止前の最後の活動が活発化してきたのはありがたい。昨日からYouTubeで新曲のPVが公開されています。→http://www.youtube.com/watch?v=cfpX8lkaSdk 埋め込みコードは公開されておりませんので、参照しながら読んでいただければと思います。

もうすでに今朝の情報番組各種でも語られている通り、過去のPVのセルフパロディ満載の楽しいビデオになっています。AUTOMATICの椅子、Travelingの帽子と旗。固定カメラ1カット長回しは「光」ですね。他にも細かいネタがあるかもしれませんが、そういうのは得意な方にやっていただくとして、今日は楽曲の第一印象だけ「ざっと」書いておきます。歌詞の内容とビデオ(なんでも本人が監督したらしい)を合わせると前夫・紀里谷和明氏へのメッセージのような気もしますが、そのへんは本人しか分からないことなのでこれも深追いしません。

「本人が買って欲しい方」のベスト盤の、楽曲リストが公開されたとき、今回の新曲として"Goodbye Happiness"というのを見たときは「真っ暗」な気持ちになりましたが、楽曲としてはポップで分かりやすい曲で、まずはほっとしました。Amazonで予約した"SINGLE COLLECTION vol.2"が届くのが楽しみになりました。
それにしても問題はこのタイトルです。私はつっかえつっかえの受験英語程度の語学力しかありませんが、直訳すると「幸せよさようなら」ですよね。何かの引用かと思ってネットを検索してみましたが、ヒットせず(ていうかGoogle検索もほとんどこの曲関連でジャックされてる)。つまり決して前向きなタイトルじゃないわけです。

しかし曲調はこんな感じで、それはちょうど桑田佳祐が"TSUNAMI"を作った時のように、「みんなこういうの待ってるんだよね、分かってるよ」という感じで出してきた、そのギャップにちょっと驚きました。サビの入り方なんかはちょっと"COLORS"に似ています。
それにしてもなんというか歌作りの地肩の強いこと。結構上がり下がりのきついメロディですが、無理にでもいっしょに歌いたくなる楽しさがあるし、しかも全然力入れてない感じは申し訳ないけど最近の他の人がかく曲とは全然違います。今の彼女がやりたい音楽なのかどうかはわかりませんが、ただ「いわゆる宇多田ヒカル風売れセン」だけで作ってるとは思えない。きっと何か仕込んであるという感じがします。この曲で言えば、ひとつはその"Goobye Happiness"という「真っ暗」なタイトルであり、歌詞の端々に見え隠れするメッセージ色の強い単語です(そしてこの曲の根っこはやはり暗いものだと思う)。楽しげなPVは懸命なカムフラージュまたは彼女のテレでしょう。

宇多田ヒカルはこの10年ちょっとの間、質の良い大衆音楽をつくり続けてくれました。その間、彼女は超メジャーでありつつJ-POPの良心でもありました。純文学的、私小説的な彼女の作風は、コンスタントに新曲を吐き出し続けることは難しいと思われ、休業もやむなしではありますが、わざわざ宣言なんかしなくても竹内まりやみたいにぼつぼつとやってくれれば良かったのに…。そこだけが残念ですね。

彼女が戻ってくるまで、私はなにを聞いていたら良いかなあ…

SOFTLY/山下達郎(初回限定版)(特典なし)

 先週末くらいからメディアでがんがん露出していて、嫌でも目についた山下達郎の新作アルバム、Amazonでぽちっておいたら無事に今日、郵便ポストにメール便で入っていました。 前作「Ray Of Hope」の感想文を書いたのもそんなに前のことではない、と思っていたのですが、あれからも...