2019/06/17

Apple Musicで聞く太田裕美の第3期(ニューウェイブ期)

 当ブログ開設以来、基本的には購入した音楽ソフトの感想文を書いてきたのですが、いまやストリーミング配信での音楽消費がかなり定着してきました。
 ストリーミングが始まったころはオジさんが聴くような音楽が配信対象にならず、あえて深掘りしてきませんでしたが、ここにきてユーミンをはじめ私が若い頃に聴いてきた音楽がかなり配信されるようになっているようです。何回か前から「Apple Musicで聴く」シリーズを何本か上げてみましたが、飽きるまでもうしばらく続けてみようかと思います。
 私は少年時代から今まで、ちゃんとしたオーディオセットとは無縁の生活をしていたので、若い頃はミュージックテープ(LPレコードと同じものをカセットテープのフォーマットで販売するもの。基本は円盤と同価格)を購入していました。今聴くとカセットテープの音なんて本当にショボいんですが、当時はそれより良い音に触れることがなかったので、それはそれで満足していました。しかし、音楽の媒体がCD、MDと変化し、ついにはネット経由のデータで配信されるようになった今、当時買いそろえたカセットテープ資産は、何度かの引越しを経てすべて失ってしまいました。CDで買いなおした音源もかなりありますが、全部をフォローしきれませんので、忘れるともなく忘れているアーティストや作品があるものです。
 ところが、Apple Musicで思いついた名前をダメ元で検索してみると意外なほどヒットするんですねえ。ちょっと前は有料ダウンロードだった作品も改めて検索してみると配信されるようになっていて、iPhoneにダウンロードすることもできる!いい時代になったものです。月極めの家賃は取られますが、ただより怖いものはないですからね。

さて、今日は、発表当時は(一部で)賛否両論だった太田裕美のニューウェイブ路線作品3作をまとめてみます。

 太田裕美自身は音楽学校出身でそれなりの素養はあったのでしょうが、スクールメイツでキャンディーズといっしょにアイドル修行?をしていたし、渡辺プロにも入っていますから、普通のアイドル路線でのデビューもあり得たはずですが、ピアノの弾き語りスタイルで登場しました。おそらくちょっと前に小坂明子がピアノの弾き語りで大ヒットを飛ばした(今思えばヤマハ世界歌謡祭のグランプリ曲であることを前面に押し出して売り出された最初が小坂明子だったと思う)後だったからではないかと思われます。小坂明子より可愛い子がピアノ弾いて歌ったらもっと売れるんじゃないか?大手の商品開発ってのはえてしてそういうものです。

 さて、太田裕美の音楽は4つか5つの時代に分けられると思います。デビューしてから数年間のアイドル的消費をされ、シングルヒットを続けていた時代(アルバムでいうと「ELEGANCE」、シングルだと「ドール」くらいまで)。アルバムでは自作曲を披露したりしていましたが、シングルに関しては判で押したように作詞・松本隆/作曲・筒美京平(/編曲・ 萩田光雄)でした。これが第1期になるのではないかと思います。
 その後、二十代半ばを迎えて少しアダルトな感じにモデルチェンジしようとしてやや迷走気味になりました。この頃の目立ったヒット曲となると、清涼飲料水のCMソングだった「南風」くらいでしょうか。「木綿のハンカチーフ」以来連続出演していた紅白歌合戦にも選出されなくなり、本人も思うところがあったのか、休養&渡米を発表するところまでが第2期。
 半年くらいと言って出て行ったアメリカ留学ですが、休養期間は1年を越え、ようやく活動を再開したのが今回紹介する第3期で、その後、結婚を機に活動は縮小します。
 しばらくして母親の立場から童謡を歌ったアルバム「どんじゃらほい」を発表した一方、自作曲や、久しぶりに松本隆/筒美京平コンビの作品を発表しました。また、近年は同時期に活動していたガロのメンバーや伊勢正三とのコンサート活動を継続しているようです。

 で、やっと本題。
 太田裕美(勝手な区分けで)第3期・ニューウェイブ編の3枚のアルバムもApple Musicで聴くことができます。
時代順に聴くのが良いと思いますが、タイトルは「Far East」(1983年)、「I do,You do」(1983年)「TAMATEBAKO」(1984年)となります。
 「Far East」はニューヨーク帰りでちょっと大人になった太田裕美をフィーチャーしたアルバムで、当時はLPレコードの時代でしたからA面とB面でコンセプトが違い、A面が「ニューヨーク・サイド」、B面は「トーキョー・サイド」と言っていました。A面は当時主流になりつつあったシティ・ポップの音で、なぜか日野皓正のラッパまで入っている豪華版です。B面もまったく違うわけではないのですが、「窓から春の風」のようなシンセの音が前面に出たテクノポップ風味のサウンドが強くなります。私は太田裕美はコンサバティブな人だと思っていたので、A面の路線で行くのだろうなと思っていたら豈図らんや、次作の「I do,You do」はデビュー当時もやっていなかったミルキーボイス全開のテクノポップでした。第2期の迷走は、つまりはどうやったら大人の歌手になれるかと足掻いた上でのことだと思うのですが、声質と舌足らずな滑舌のために本格派になりきれなかったのを完全に開き直った感じがして、「よくやった!」と思う出来でした。私はこのアルバムの「こ・こ・に・い・る・よ」という曲で初めて「5拍子」を理解したものでした。
 しかし、デビュー当時の「可愛い女子大生風弾き語り」のイメージでついてきていた人はこの辺りでいわゆる「オタ切り」されてしまったようです。私の学生時代の友達も一緒に行ったコンサートの後で「こんなの太田裕美じゃない!」と怒って帰って行きましたから、そういうファンは多かったんだと思います。
 そんなデジタル穏健派の私でもちょっと行き過ぎでは?と思ったのが3枚目の「TAMATEBAKO」。
 「ランドリー」とか「チラチラ傘しょって」とか奇天烈なタイトルが並び、前作よりもさらにぶっとんだ曲が並びます。

 でも、今聴くと「TAMATEBAKO」がいちばん完成度が高いですね。太田裕美の時代は、ちょうど音楽向けの機材が現代化していった過渡期なので、「ELEGANCE 」あたりまでは(曲はすごく好きなのが多いですが)音が古いです。次の「海が泣いている」は海外録音で音は良くなったんですが、曲が小難しくなって愛聴するにはいたりませんでした。大瀧詠一復活の時期にシングルで出した「恋のハーフムーン」はさすがのナイアガラ・サウンドですがこれはちょっと例外とすると、やはり「Far East」以降のサウンドは今の商品と比べても音の面で遜色がなく、改めてちょっとおススメしたいと思います。 

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