ディープな歌謡曲のさらに最深部を目指して進んでいます。
Wikipediaによると、この曲は1966年発売。私が3歳の頃の歌です。私の記憶に残っている歌謡曲の中では最も古いもののうちの一つです。園まりは渡辺プロ所属の「三人娘」の一人。
アメリカン・ポップスが得意な中尾ミエや、竹内まりやに似た(ゆえにカレン・カーペンターにも似ている)モダンさを持つ伊東ゆかりに対して、「ムード歌謡」の真ん真ん中を行ったのが園まりです。
歌謡曲自体がジャンルとして特定し難いのに、サブジャンルの「ムード歌謡」と言われると、なにがなんだか分からなくなりますが、乱暴に要約すると、外国曲風のカラオケ(ジャズまたはラテン系)にのせて唄う演歌のようなものです。
園まりはiTMSでもダウンロードすることができます。代表曲の「逢いたくて逢いたくて」を聴いてみましょう。
なんとまあ、とため息が出るような声です。20歳そこそこの女の子が、こんな声で唄ったら、そりゃオジサンは堪りませんわ。クラシックに行きかけて途中でやめた感じの声です。男だと布施明に相当するのでしょうか?
この発声の後継者は、現代のJ-POPにはちょっと見当たりません。強いて似ている人を探すと、演歌の大月みやこ?
園まりは渡辺プロお得意の「丸顔女子大生風」アイドルの始祖でもあります(この後、あべ静江→田中好子→太田裕美→石川ひとみ→河合その子→中川翔子と続く)。
ちあきなおみの時にしつこくやりましたが、園まりももの凄く丁寧にこの曲を吹き込んで(レコーディングで唄うことの昭和的表現)いるのが分かります。
「ふたりはこいびと」の箇所では、
「ふーたりぃはこいびぃぃっとーぉぉぉ」と唄っています。
この「っとーぉぉぉ」の微妙なタメがこの曲における園まりの芸です。この曲ははねた4ビートで、1拍が3分割されていますが、普通の作曲法だと「こいびと」の「と」は小節の1拍目頭に置かれているはずですが、園まりは3連音符2つ分ためてから「と」と唄います。
(普通)
[ふーた|りーは|こーい|びーい][とーー|ーーー|ーーー|ーーv]
(園まり)
[ふーた|りぃは|こーい|びぃぃ][×っと|ーーー|ーーぉ|おおv]
この3連音符何個分かタメるというのは、この曲の中で何カ所か意識的に行われています。松尾和子などに先例があると思われますが、園まりは元々の声質がノーブルなので、下世話にならないという美点があります。
また、ぱっと聴くと、ちりめんビブラート(ロングトーンの最初から最後まで細かいビブラートが一面にかかる。悪口)かと思いますが、ビブラートをかける音符、まっすぐ伸ばす音符がしっかり区別されているのが分かります。1〜3番まで、キメ方にぶれが無いですから。
作曲は私も尊敬する宮川泰。もともとはザ・ピーナッツ用の曲だったとのこと。あの方の芸風(?)を思うと、「とにかく色っぽくやってよ、まりちゃん!」みたいな指導だったのではないかという気も半分はするのですが、音符はしっかり書き込んでいたんだろうなと思わせます。この、作者による細かい指定を忠実に何度も再現する、というのが演歌を含めた「歌謡曲」の芸です。この点ではクラシック音楽にも共通していますし、日本の伝統芸とも矛盾がありません。
「まずはセンセイのやった通りに再現することを目指す」
「少なくても形式上はセンセイの完全コピーができることが前提で、そこから熟成して自分の色を出す」
歌謡曲は、そんな日本の伝統芸能や、ファインアートとしてのクラシックに憬れつつも、産業として開発スピードが要求されますし、若年層への販売を考えると商品としての歌手も、若くてカワイイことが重要なフックになってきます。
そして、学生運動などの流れを通り過ぎ、「個性重視」とか「形式主義への軽蔑」などの気分が国民に共有されたところで、曲の解釈よりも歌い手のパーソナリティや声質などのアピールが優先された「歌謡ポップス」、「アイドル歌謡」が普及します。次回はその辺の話をしたいと思います。
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