2010/03/07

ひこうき雲/荒井由実

先日、TwitterのTL上でちょっと盛り上がったのが、以前にNHK BS2で放映された荒井由実「ひこうき雲」のビデオ。
元々、私は受験が終わった1982年の春に教育テレビで再放送されたオフコースのアルバム、"over"のメイキングを見てから音楽趣味が高じた経験者なので、このテの番組は大好物ですが、BSを視聴できる環境になかったので見ることが出来ませんでした。
Twitter上で教えてもらったときは全編分が6分割されてYouTubeに上がっていた(今は全編は見られないようです)ので、しっかり見ました。おかげで普段はカーグラTVでしか知らない松任谷正隆が音楽をやっているところを初めて見ることができました。

オフコースのメイキングがどちらかというと制作手順の面白さだったのに対して、「MASTER TAPE -荒井由実“ひこうき雲”の秘密を探る-」はミュージシャンの芸そのものにスポットが当たっていて、見る順番が違ったら私ももうちょっと楽器演奏そのものにこだわって、少しはギターの腕前が上がっていたかもしれません。

そこではたと気づくのが、私は荒井由実をちゃんと聴いてないということ。私の年だと、音楽的に早熟な人は別にして、「松任谷由実」になってからの音楽しか聴いてないと思うんです。ドラマの主題歌になった「あの日にかえりたい」は母と一緒にテレビ見てれば聴こえてきましたが、基本的にテレビに出ない人だったので子どもの目にはとまりにくかったのです(いや、当時の子どもなりのたしなみとして名前ぐらいは知ってましたけど)。

せっかくの出会いなので、「ひこうき雲」を聴いてみようじゃないかととりあえずiTunesで「荒井由実」と入れてみたら一発検索。「ひこうき雲」も「ミスリム」もiTSから落とせるじゃないですか。
荒井由実 - ひこうき雲
「ひこうき雲」は1973年の発売で、バックを勤めている細野晴臣と鈴木茂がいるキャラメル・ママは、解散間もないはっぴいえんどの発展型でもあります。「ひこうき雲」は荒井由実のデビュー・アルバムであると同時にはっぴいえんどのその後を追うためのアルバムでもありました。件のNHKのビデオではユーミン自身は「イギリスのロックが好き」と言っていて、一方キャラメル・ママはアメリカンな方向。そのせめぎあいと融合が「ひこうき雲」だった、という発言が収められていました。

さて、中身を聴いてみましょう。
はっぴいえんどにはいなかったキーボーディストとして松任谷正隆がピアノとハモンドオルガンを弾いていて(ピアノはユーミンも弾いています)、1曲目の「ひこうき雲」を聴いていると「青い影」を思い出します。いわゆるシンセサイザーが普及する前、ハモンドオルガンは一種の波形加算型シンセ(波長の異なる正弦波を重ねることで音色を作る)として使われています。
「雨の街を」はユーミンには珍しいどっぷりマイナーな曲かと思うと、とちゅうでファラミーと跳躍して、「お、来た来た!」と思わせます。何処かで聴いたな、と思ってたら、TAK MATSUMOTOのカバーアルバム、"THE HIT PARADE"で松田明子という人が歌っていたのを聴いていました。
ユーミンの歌い方はずっと変わらず、人工的でクールと思い込んでいましたが、このアルバムではそれなりの青さ、若さのほとばしりを感じさせ、当時の若者の支持を集めた訳がなんとなく分かりました。

さて、当時のフォークソングが、歌詞の意味重視でサウンドやテクニックは二の次だったときに、ユーミンは詞、曲、アレンジの3つが高いレベルでバランスした、しかも若い世代の手による新しい音楽ジャンル(ニューミュージック)を開発しました。
ユーミン以前にも、自分で作詞作曲した手作りの音楽でありながらアレンジやサウンドを重視した音楽を志向していた人たちがいましたが、そういう音楽性の人たちは本人のキャラクターが薄く、大衆音楽として大きく成功した人がいなかった。ユーミンをきっかけに「ニューミュージック」というジャンル名ができたことによって、改めて飛躍のきっかけを掴んだ人は多かったと思います。

例えば赤い鳥が解散してハイ・ファイ・セットが結成されたのが1974年です。ハイ・ファイ・セットはユーミンのカバーを多く歌っています。

また、オフコースは1970年にレコードデビューしていますが、1973年というと、初の全曲オリジナルのアルバム「僕の贈りもの」を発売したところ。1975年にユーミンを意識したと思われるアルバム「ワインの匂い」とシングル「眠れぬ夜」を発表します。頭の中で「もしも小田和正が『ひこうき雲』を歌ったら」というネタをやってみてください。違和感ないでしょ?

さらに山下達郎がシュガー・ベイブでデビューしたのが1975年、尾崎亜美(デビュー時からポスト・ユーミンと言われた)のデビューが1976年です。この二人にはそれぞれ大滝詠一、松任谷正隆が関わっています。はっぴいえんどからつながる人脈の輪の中でユーミン、タツロー、尾崎亜美がその第一歩を踏み出しているということを思うと、その影響力に改めて愕然となりますね。

0 件のコメント:

SCIENCE FICTION/宇多田ヒカル

前回の更新から2年近く経ってしまいました。その間に会社を定年退職したり引っ越ししたりで自分のことで精一杯でしたが、まあ晴れてほぼ自由の身(経済的にはどんどん不自由になるわけですが)ということで、これからは身バレしようが炎上しようが誰にも迷惑がかからないことになっています。 さて、...