今、最も注目の新人歌手、ピッツバーグの演歌の星・ジェロです。
iTMSでダウンロードできるので、A面だけ落として聴いてみました(ちなみにiTMSでは"JERO"では出てきません、カタカナで検索しましょう)。
ここ数十年来、聴き手をバカにした曲しか出てこない演歌界でしたが、ひょっとすると彼は救世主かもしれません。ちゃんと聴けます。
なぜかということを真面目に説明しますと、氷川きよしとジェロは「演歌歌手です、頑張ります」と言いながら、実は演歌を批評しているからですね。今、ストレートな演歌で真面目に聴けるものはめったにないのです(最後が「天城越え」くらいじゃないでしょうか?)。
氷川きよしは今の若者から見た演歌への批評です。彼は演歌のもっさりしたリズムを自分で倍に刻んで唄い、小節(こぶし)の部分もやたらはっきり音符的に唄うことで、演歌を他の音楽と交流可能なものにしています。
ジェロは外国人から見た演歌の批評をしています。若い頃の五木ひろしや角川博などに近い、地声の奇麗な演歌歌手の系譜に位置づけられる喉の持ち主。ちゃんと鼻濁音も使えるところなどはネイティヴ・ジャパニーズもまっ青です。
作曲は宇崎竜童という、キャリアの中で一応ロックを通り過ぎてきた人。作詞の秋元康は、(前にも書きましたが)「川の流れのように」を作ったから作詞家だ、ということになっていますが、実際には一から作品を生み出す才能ではなく、引用と組み合わせで何かを作る二次産業的クリエイターです。こういう人は演歌と相性が良い。「酒」「夫婦」「不倫」「貧乏」「水商売」「日本の都市名」「日本の観光地名」などを取捨選択して組み合わせれば良い演歌の歌詞を、ちょっと新味があるように見せかけるのは得意なはずです。
さて、結果として「海雪」は根っからの演歌歌手がなかなか手に入れられない新しいテイストの演歌として通用しつつ、パロディでもあるというなかなか高度な出来上がりになっています。
私の希望は、次の作品でヒップホップのアーティストにバックトラックを作ってもらい、上モノとしてド演歌が乗っているようなのをやって欲しいです。そうすると演歌のみならず日本のヒップホップ批評にもなるはずです。
2008/03/20
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