今回は「うまい・へた」問題から離れて、倉木麻衣を聴きます。
"Love,Day After Tomorrow"は彼女の曲の中では好きな曲です。彼女のデビュー曲であり、宇多田ヒカルとの類似がなにかと話題になった作品です。私は宇多田ファンなので、あまり近づかないようにしておりましたが、単独で聴けばよく出来ている佳曲です。
Wikipediaで確認したところ、この曲が発売されたのは1999年12月ということです。9年も経てば時効だと思うので、今一度、この作品について考えてみようと云う主旨です。
さて、とりあえずこの曲のどこがどんな風に、ということは置いておいても、"Automatic"と似た印象を持たせようとしていることは間違いの無いところです。
"Automatic"と"Love,Day After Tomorrow"をiTunesで並べて聴いていると、まず出だしの音がドラムの音から始まるところとか、テンポとか、バスドラの刻み方とか、よく似ています。Wikipediaで調べたら発売日も"Automatic"のきっかり1年後なんですね。それから、実際には声質や発声は全然似ていないのですが、宇多田ヒカルのいろんな声のうちの中高音で靄がかかったようなところと印象が似るように録音されています。あまり音楽に興味の無い人には同じものに聴こえるでしょう。
しかも仕上げは倉木麻衣の方が丁寧できれいです。
イントロを聴き比べると良く分かりますが、"Automatic"は結構音がスカスカで、それを宇多田ヒカルの声で空白を埋めるようにできていますが、"Love,Day After Tomorrow"はハイハットの音とか黒人ラッパーっぽい「イェイ、イェイ」みたいな声が入っています。その後、今聴くとこれでいいの?というほど普通のコード(M7とかの装飾音は付いてますが)をピアノが弾いて行きます。歌の根幹としてはとても普通な歌謡曲なんですね。
宇多田ヒカルの曲作りというのは、今もそうですが、骨組みをデッサンで描いて、肉付けして、色を付けてというやり方でできていると思います。聴いていてもなにかこの辺に核となるアイデアがあるんだろうなと思わされるポイントがあって、どうかすると下描きの線が透けて見えることもあります。手触りがゴツゴツしている。
一方、倉木麻衣をプロデュースした人は、宇多田ヒカルの中にマーケティング上の妨げとなる、過剰だったり変形していたりするものを見つけたんだと思います。それは消費者に嫌われるかもしれない要素だから、そこにヤスリをかけてもっと滑らかなものを作ればもっと売れると思ったんじゃないかなあ。
もうちょっと普通のJ-POPっぽくて、サウンドの仕上げが丁寧で、宇多田ヒカルよりカワイイ女の子に唄わせれば…。そしてそれは、絶対売上額ではさすがに無理(800万枚なんてのは天変地異みたいな数字でしょ)だったけれど、目標は達成したと思うんです。
倉木麻衣のプロジェクトはパソコンのように出来ていて、ケース、CPU、HDD、グラフィックボードをどう付けるか、という作り方がされています。お金があれば良い部品(作家とかスタジオとかミュージシャンとか)を使えるし、ケース(サウンド)を変えれば斬新なイメージにもなります。
歌詞は本人が書いていますが、この歌詞も部品の一つです。全体のプロジェクトを壊すような強い主張はなく、耳心地の良さを損なわないようになっています。引用はしませんが、特に歌詞の英語部分の何も言ってなさ加減はすごいです。
オリジナリティよりもクオリティ。これは20世紀の日本の産業が行き着いた一つの到達点です。
自動車なんかそうだったでしょ?「外車なんか乗ってるの?故障するでしょ、直すとお金かかるでしょ?国産車はお金かからなくていいよ」ってみんな言ってた。
自動車の世界では、そろそろそれだけじゃダメで、オリジナリティとかフィロソフィーとか社会性とかもいるらしいよということ(とりあえず製品上はね。企業としては知らないけど)も考え始めているみたいですが、音楽については21世紀の今もまだ、クオリティの追究の方が重要視されているみたいな気がします。人の命を預かってるわけでもないのにね。
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