80年代に聴いていた音楽の話は記憶でどんどん書けます(要注意w)。
オフコース脱退後のYassさんこと鈴木康博のアルバムもいくつかApple MusicからiPhoneに落として聴くことができます。ただし、私がフォーカスを当てたいソロ活動最初の10年くらいについては、アルバム単位で落とせるのがこれだけなんですね。ちょっと寂しい。
「Long Slow Distance」は鈴木康博のソロ・アルバム3枚目。1985年の作品です。タイトルは長距離走トレーニングの用語ですね。
おそらくこの頃のYassさんは、活動再開した4人のオフコースを横目で見ながら作品を作っていたと思います。もともと脱退の理由は音楽性の違いではなかったと言われていますので、あっちこっちと合わせてその後のオフコース、といった曲作りになっていても不思議はありません。
当時、私が音楽関係の雑誌記事などから断片的に読み取った情報としては、Yassさんは独立にあたって当時の最新鋭シンセサイザーであるところのフェアライト(たしか1600万円とか言ってた。小田さん愛用のPROFET5の10倍ですね)を購入していたはずです。これはデジタルシンセの走りであり、電子ペンで波形を書くとそのとおりの音を再生できるというものだったはずです。生身のギタープレイヤーである自身とコンピューターサウンドの融合をテーマにしていたようです。
さて、このような前振りがあって、Yassさんは、かたや活動再開メドも発表されないままの古巣を尻目に、1作目のアルバム「Sincerely」を1983年に発表します。私も発売早々に入手して聴きましたが、フェアライトのピコピコではなく、いきなりアコースティックギターとブラス音をメインにしたオーソドックスな曲が流れてきて、ちょっと拍子抜けした記憶があります。「素敵にシンデレラコンプレックス」もいっしょに収録しちゃえばよかったのに(すみません、ミーハーで)。なるほど、Yassさんは一人で完成度の高い音楽を作るためのツールとしてフェアライトを導入したのであって、別にテクノをやりたかったわけではなかったようです。ミディアムテンポの、オフコース時代の湘南海岸シリーズ(?)に近い曲が多かったかな。「潮の香り」の続編のような「入り江」という美しいバラードが収録されています。
翌年の1984年はオフコースが活動再開し、4月にシングル「君が、嘘を、ついた」を、6月には先日ここで書いた「The Best Year of Life」が発表されます。
Yassさんは同年の9月に2作目の「Hello Again」を発表しています。制作過程でオフコース新作の影響があったのかなかったのか、興味深いところです。私は2曲めの「雨がノックしてる」を「君が、嘘を、ついた」のアンサーソングと見ました。
で、やっと今日の本題「Long Slow Distance」の話にたどりつきます。
1985年、年1作のペースを守って3作目のアルバムとして発売されたのがこのアルバムです。私の見立てではYassさんのキャリアの中でももっともヒットを意識して作られた作品だと思います。アルバムの最後に「City Woman」が入っていますが、この曲はWikipediaによると「黄桜マイルドのCMタイアップ」となっていますし、当時なにかのインタビューでYassさんは「『City Woman』は自分の中では演歌」と語っていました。ハッタリの効いたシンセサウンドと覚えやすいメロディはかなり売れセンを意識したものになっています。「Long Slow Distance」は8曲入り36分のわりとコンパクトなアルバムですが、奇しくも小田さんの「K.ODA」がそうだったように「鈴木康博はこういうことができます」というプレゼン資料としてよくできていると思うのです。
そして、久しぶりに通してこのアルバムを聴いてみると、実はYassさんの音楽は意外なほど山下達郎に近いことに気がつきます。メロディとかじゃなくて作り出す全体の音が。オフコース時代、ハ長調カノン進行担当の小田さん、R&Bとハードロック方面担当がYassさんというイメージでしたが、オフコース結成時での音楽的素養はYassさんの方が高かったようですし、音の嗜好が山下達郎とカブるのは不思議ではありません。
要するに、とまとめるのも変ですが、オフコースのふたりでいうとYassさんの方が小田さんよりミュージシャン的というのか職人的な人なんだろうな、と思います。大学でもロボット工学を学んでいたエンジニア志望の人だったんですよね。小田さんは建築家の勉強をして、後に(総合芸術である)映画の監督をやるような人だったわけで、その辺の個性の違う二人の緊張感でオフコースができていたんだなあと思いました。
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